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毛周期 --- 毛はどこから生えてくるのか?


毛は、成長期・退行期・休止期というサイクルで生え替わっていることは(たぶん)誰でも知っていることです。
でも、抜け落ちて休止期に入った毛嚢からどのようにして毛が再生してくるのかは案外知られていません。

私(Dr高橋)は脱毛に取り組みはじめたときに学生時代の古い皮膚科学や解剖学の教科書を読みなおしてみたのですが、 理路整然とした解説はありませんでした。(今にしておもえば、執筆された大学の偉い先生がたもよく判っていなかったようです)
その後の私自身の経験や耳学問で、最近やっと人に説明できるようになりました。(なったつもりです)
これから説明する内容には、私の推測が多量に含まれています。 後日に「間違いでした。訂正いたします」ということになるかもしれませんが、レーザー脱毛で経験する照射後の経過には矛盾しないようです。

毛は毛乳頭から生えてくる?

右の図は私の下手な手書きです。一番下の「毛乳頭」という言葉は養毛剤の宣伝などでよく目にします。
毛乳頭に出入りする血管を通じて、毛は栄養を受けて成長しています。ですから、毛乳頭を破壊すれば永久脱毛ができると、長い間、信じられてきました。

稲葉益巳先生の功績(皮脂腺説)

独特のワキガ手術法を開発実践された稲葉先生の名を聞いたことのある人も多いとおもいます。(数年前に御逝去されました)
「毛嚢の底に毛母細胞があって、毛母細胞から毛の芽が発生して毛乳頭から栄養を受けて成長する」という、 それまでの定説に対して稲葉先生は「いや、違う。上図の皮脂腺開口部のすぐ下の峡部毛鞘が毛の発生母地である」と異を唱えられたのです。 約17年前のことです。(日経サイエンス1984年)
峡部毛鞘と毛乳頭はあまりに離れていて、長い間、見向きもされませんでした。 (市井の医者の異論を素直に聞くほど象牙の塔にいる人たちの頭は柔らかくなかったということです)
稲葉説は御自身の実体験に基づいていて非常に説得力があります。
アポクリン腺を含めて皮下組織を削除するのがワキガ手術なのですが、きちんと手術ができていれば、上図の毛球や毛乳頭は完全に取り除かれているはずです。 それなのに数ヶ月後には毛が生えてくるのです。(この現象は私自身もたくさん経験しました)
稲葉先生は完璧主義者でしたから不思議でしかたなかったようです。 完全に取り除いたにもかかわらず生えてくるのは、取り除いていない浅い場所に発生母地があると考えられたという次第です。

膨大部(バルジ=Bulge)説

峡部毛鞘より少し下に「バルジ」と呼ばれる膨らみがあります。 Dr.Cotsarelisは稲葉先生より数年遅れて、この部分に発生母地があると指摘しました。(Cell 1990年)
欧米では、言葉の壁からか、こちらの説のほうが有名です。(私は、稲葉説もCotsarelis説も同じことを言っているのではないかと感じています・・・)


ちょっと話題をかえます。成長期の元気な毛は、引っ張っても、なかなか抜けません。毛根の一番下は「毛球」と呼ばれるように急に太くなっています。 そして首の部分がギザギザになっていて毛嚢と絡み合っているそうです。これが上図の鋸歯状結合です。 毛球が大きくギザギザがしっかりしている若い毛は抜けにくいのです。
成長期を過ぎて老化すると毛球は萎縮し、ギザギザも消失して抜けやすくなります。これが退行期です。(右図)

そして完全に抜け落ちると

必要のなくなった毛乳頭や栄養血管も含めて毛嚢底部は萎縮していきます。

そして、

完全に萎縮して休止期となります。

やがて、

時期が来ると毛嚢底部の細胞が増殖しだします。(この細胞を「幹細胞」といいます)


毛芽が生まれて栄養血管も育ちます。


毛嚢は皮下深部に向かって深くなっていき、毛球が形成されます。
そして文頭の図(No1)のような、しっかりした毛へと成長していくのです。このNo1からNo7の繰り返しを毛周期(Hair Cycle)と呼びます。

毛乳頭 vs. 膨大部(峡部毛鞘)

レーザー脱毛がはじまって4年程度しか経っていません。それ以前は、大多数の医師は毛乳頭に源があると漠然と考えていました。 (稲葉説というものがあるということを知っていた人はほとんどいなかったのです)
レーザー脱毛がはじまった最初の頃、まだ効果もはっきりしなかった頃に 「レーザーで永久脱毛はできない」と異議を唱えたのは針脱毛を積極的におこなっていた人たちです。 (大手の某エステがテレビや雑誌で大々的に反レーザーキャンペーンをおこなったのは記憶に新しいです)
彼らがレーザーで脱毛できない根拠としてあげたのは、 「この波長のレーザーは皮膚にはいれば急速に減弱する。効果があるとしても2~3ミリの深さまでである。成長期の毛乳頭はもっと深いので破壊できるわけがない」 というものでした。まったく理論的で異議の唱えようがありません。
「レーザー脱毛学」の礎を築いたDr.Grossmanは初期(1997年)の論文で、 「毛乳頭まで破壊するためには40-70 J/cm2もの高出力が必要」だと推測しています。 いまでこそ、コヒレント社のダイポードレーザーならこのような高出力も安全にだすことはできますが、 その当時、私が使用していたロングパルスアレキサンドライトレーザーでは副作用を考慮すれば20 J/cm2が限界です。
理詰めでいけば、確かに脱毛できないことになります。 ところが実際に使ってみると、15 J/cm2ぐらいでもワキの太い毛なら十分に脱毛できるのです。 「毛乳頭説」が正しければ脱毛できないということになりますが、「稲葉説」からみればどうでしょうか?


レーザー光線は深部にある毛乳頭は破壊できないかもしれませんが、レーザーエネルギーによって燃やされて高熱を発する毛根は、 毛乳頭部よりも浅いところにある峡部毛鞘や膨大部ならば変性させることはできます。
「峡部毛鞘や膨大部ならば破壊させることはできます」とは書かずに「峡部毛鞘や膨大部ならば変性させることはできます」と書いたことに注意してください。 破壊とは文字どおり壊すことです。破壊すれば、その部分を切り取って顕微鏡で見れば形が変わっているはずです。 でも実際は変わっていないはずです。形は変わらずに細胞としての働きをなくすというか機能的に変化することを変性といいます。 生卵を踏みつぶすのは破壊で、茹でるのは変性です。細胞破壊と細胞変性とは別物です。

ややこしい説明になってしまいましたが、レーザーで脱毛できるという事実から、発毛の源は「毛乳頭」ではなく、 もっと浅いところにあると考えるのが妥当であるということになったわけです。
学会でも「レーザー脱毛」の効果がまだ疑問視されていた1997年秋に、私は「脱毛用レーザーの使用経験」という学会発表をおこないました。 このときの質疑応答で、「結局、これで稲葉説が正しいことが証明されたと考えます」と答えたとき、稲葉先生は本当に嬉しそうでした。 (内容は翌年の学会誌に掲載されています)

その後、経験を重ねるうちに、おもしろいことに気づきました。
適切な出力で照射して、きちんと処理できた毛はピンセットで引っ張れば、スルリと気持ちよく抜けてきます。 ところが、ワキや男性のヒゲの場合に多いのですが、どう考えてもきちんと処理できているのに抜けないのです。 無理に引っ張れば「アイタタタ・・・、脱毛できてないんじゃないですか?」と言われてしまうのです。
とくにヒゲの場合に顕著です。


この写真は照射後4日目の状態です。このように、照射後1週間くらいはすくすくと伸びてくることは希ではありません。 更に困るのは、その伸びてきた毛が剃れないというのです。痛くて剃れないというのです。そして5~6ミリ伸びた状態で成長は停止します。 不精ヒゲ状態で過ごして、不安がピークに達した頃、2~3週間した頃にやっとポロポロと抜け落ちてくるのです。
この現象は「稲葉説」でなら説明できます。

このような現象は太くてしっかりした毛で発生します。

左のように毛根が短いと毛乳頭の位置は浅いですから毛嚢全体を焼くことができます。 引っ張れば、スルリスルリと気持ちよく抜けて脱毛できているという実感が味わえます。
右のように毛根が長い場合でも、発毛の源である「膨大部」は浅い位置にありますから十分に焼けます。 しかし、鋸歯状結合部や毛乳頭は深い位置にありますからからレーザーが十分に届かず、相当なダメージは受けるものの完全には焼けません。 すなわち、稲葉説が正しければ、発毛の源は変性せしめたので将来はこの毛嚢から毛が生えてくることはないと言えます。 将来は生えてこないでしょうが、いまある毛はどうなっていくのでしょうか?


毛乳頭はかろうじて生きていますから、毛は成長し続けて皮膚から「燃えかす」を押しだしてきます。ダメージを受けた毛乳頭は萎縮して、 1週間もすると力尽きて生産ができなくなってしまいます。これで、太くてしっかりした毛の場合には「燃えかす」がしばらく伸びてくることが説明できます。
では、この伸びてきた「燃えかす」を剃ろうとすると引っ掛かったようになって痛くてしかたがないのはなぜでしょう?
抜毛すると痛いのは、(あたりまえですが)痛みを伝達する神経があるからです。 この神経は栄養血管と同じように毛乳頭を通じて毛球につながっています。 カミソリで毛を剃るときに痛くないのは、毛幹を引っ張っても毛球や毛乳頭に負担がかからないように「鋸歯状結合」でそれらを保護しているからなのです。 ところが、「燃えかす」となった毛を剃る場合や引っ張ろうとする場合は、この鋸歯状結合も壊れていますから、 力が直接に知覚神経に加わり「アイタタタ・・・」となるのです。
2~3週間して毛乳頭が力尽きて活動を停止してはじめてポロポロと抜けはじめるというわけです。

ヒゲの照射で最初の数回は、照射後4週間程度すると次に生えてきた毛は脱毛できる程度の太さになるのが普通です。 それらの毛の全てが照射時に休止期であったものではなく、膨大部が完全に焼き切れなくて復活してきたものも含まれているようにもおもいます。 例えそうであっても、復活の初期には毛嚢は以前ほど大きく深くはないでしょうから何回か照射を繰り返せば完全変性させることができて、 どんどん毛量が減っていくのだと推測しています。

長くなってしまいましたが、稲葉説にしたがえばレーザー脱毛の照射後の経過が無理なく合理的に説明できたのではないかと考えます。

2001年5月30日
渋谷高橋医院 院長
高橋知之




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